いい会社ってなんだっけ。日本企業は「サステナブル」になれるのか?:B Corpハンドブック翻訳ゼミ・アネックス Vol.01

23 min readDec 13, 2022

2022年6月に発売された『B Corpハンドブック よいビジネスの計測・実践・改善』。本書を翻訳するプロセスのなかで「よいビジネス」がもつ日本独自の背景を探るべく、2021年に開催されたイベントシリーズが「B Corpハンドブック翻訳ゼミ・アネックス」です。2021年2月24日に開催された同イベント第1回のレポートを同書の重版を記念して公開します。執筆してくれたのは、『B Corp ハンドブック翻訳ゼミ』のメンバーの篠田慶子さんです。*本記事末尾にイベントのYouTube動画を掲載しています。

2021年1月から「あたらしい会社の学校『B Corp ハンドブック翻訳ゼミ』」に参加している。このゼミはB Corp™️の概念を知るための、認証取得の入門書とも言える書籍『The B Corp Handbook』の日本語版出版プロジェクトであり、B Corp認証取得に関心があり、かつ翻訳に関わりたい人を広く募り、最終的に30名ほどのメンバーで構成された。

日本経済に停滞感を感じているし、サステナビリティやダイバーシティ、ESG投資など企業が取り組む課題も増え続けているとも感じている。もはや利潤の追求をするだけでは「いい会社」とは言えないいま。そこで、B Corpハンドブックの翻訳を通して「これからのいい会社とは何か?」を考えてみたかった。

今回「B Corpハンドブック翻訳ゼミ」の派生である特別レクチャーがスタート。第一回目のテーマは「日本企業は「サステナブル」になれるのか?」。人事の分野で新しい取り組みを続ける篠田真貴子さん、B Corp認証を取得したダノンジャパンでマネージャーを務めるデイヴ・マテオさん、楽天でサステナビリティ戦略を担当してきた眞々部貴之さんをゲストにお迎えし、ゼミのファシリテーターである鳥居希(バリューブックス)と若林恵(黒鳥社)をホストに開催された。

日本企業のサステナブルを考える前に、まず抑えておきたいのがグローバルなサステナブルの事情だ。企業のサステナブルが進んでいるアメリカやヨーロッパではどのような変化が起きているのか。

グローバルなサステナブルの現在地

若林恵(以下、若林):多分、SDGsっていうのが出てくる前からも、例えば環境みたいな話っていうのは、やっていなかったわけでもないよな、という気もするんですよ。そういうなかで、今の現在地と、現状抱えているであろう困難などをどう乗り越えていくことが可能なのか?みたいなことを、ゆるゆるとディスカッションしていけたらと思っているんです。

篠田真貴子(以下、篠田):大きく言うと、社会にとっていいことと、企業として利益を出すということが、同時には無理である、というのがこれまでの通念だったんだと思うんです。それが、ここ5年から10年くらいでしょうか、アメリカやヨーロッパでは大企業は変わってきていて、両方達成する企業が増えてきているんです。

若林恵(わかばやし・けい|黒鳥社 コンテンツディレクター)

1971年生まれ。編集者。ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業後、平凡社入社、『月刊太陽』編集部所属。2000年にフリー編集者として独立。以後、雑誌、書籍、展覧会の図録などの編集を多数手がける。音楽ジャーナリストとしても活動。2012年に『WIRED』日本版編集長就任、2017年退任。2018年、黒鳥社(blkswn publishers)設立。

篠田真貴子(しのだ・まきこ|エール株式会社)

慶應義塾大学経済学部卒、米ペンシルバニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008年10月に(株)ほぼ日(旧・東京糸井重里事務所)に入社。同社取締役CFOを経て、2020年3月よりオンライン1on1を提供するエール株式会社の取締役に就任。『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』〈日経BP〉、『ALLIANCE アライアンス―――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』〈ダイヤモンド社〉監訳。

若林:なんでそれが起きたんですか?

篠田:アメリカには所得格差の問題という社会的な背景があります。トランプ大統領が、格差を縮めてくれるようなことを言っていましたが、実態はそうならなかった。さらに女性とかマイノリティに対する分断が顕在化して、社会が不安定になってきてしまった。そうなると、改めて社会が安定していないと、企業活動って非常にやりにくいんだなっていうことを実感する。会社としても経営上、社会が安定する方向に自分たちは貢献しているのだというふうにしたほうが、消費者の支持も得られるし、自分たちの経営環境としてもベターなんですよね。

ヨーロッパでいうと、例えばフランスでは、熱波など、やはり気候変動が背景にあります。クーラーのない家がほとんどだそうで、多くのお年寄りが亡くなられた。特に若い方を中心に、熱波が毎年くるようなヨーロッパに住みつづける未来を考えたときに相当な危機感を持っているのだと思います。リアルな生活者としての危機感から、温暖化を進めちゃうような行動をしている企業のものはボイコットしようよっていう話が割と自然になっています。これがおそらく、ヨーロッパでサステナブルな活動がかなり幅広くなっている理由なのかと。

アメリカでは社会問題が、ヨーロッパは気候変動が、企業をサステナブルに向かわせた大きな要因と捉えられる。社会が安定しないことには企業活動もままならない。そこで、企業の経営視点にダイバーシティや気候変動が入ってくるのは想像がしやすい。

さらに興味深いのが、どこに投資するかを決定するファンドマネージャーの存在がある。

篠田:欧米のファンドって日本企業と異なり年功序列という価値観が薄いので、40歳以下の若い方たちがファンドマネージャーをやっているケースも少なくないんですよね。そうすると、この人たちの自然な肌感覚として、いちいち理屈で考えなくても選ぶ会社にそういう視点が入ってくる。

若林:なるほど。眞々部さんは楽天にいらっしゃったときに、結構そういう機関投資家とかとのやり取りもあったというお話をされていたんですけど。

眞々部貴之(以下、眞々部):ESGでいうと、過去にはGにあたる「ガバナンス」のみが重要視されてきました。例えば、あなたの会社はすごいM&Aをしているけど、組織のカルチャー的には大丈夫なの?みたいな。そういう観点がメインだったと思うんですよね。財務の評価、財務パフォーマンスと直結していそうなところからきたと思うんですよ。ただ、ここ5、6年でこれまで二の次にされていた環境とか社会みたいなものが、トピックに上がることが急速に増えたなって。トピックがGだけでなく、E・Sの「環境・社会性」にも広がってきたなという感じはすごくあります。

眞々部貴之(ままべ・たかゆき|元楽天 サステナビリティ部)

元楽天株式会社 サステナビリティ部 シニアマネージャー。NGO、シンクタンクを経て2015年楽天に入社。2021年1月まで楽天グループのサステナビリティ戦略策定、ESG情報開示などを担当。2018年には、「未来を変える買い物を。」をテーマとした「Earth Mall with Rakuten」を楽天市場内にオープン。現在は金融情報サービス企業のESGスペシャリストとして、金融機関などのサステナブル・ファイナンスへの取り組みを支援している。

日本でも機関投資家の間では、ESGのトピックが急速に増えつつあるとのこと。となると、実際の現場で対応できる人とはどういう人なのかが課題として浮かび上がる。

若林:そういうESG的なことって、どういう能力なり、資質を持っているから対応できると言えるんですか?

眞々部:まさにCSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)みたいな人の資質とも関わってくると思うんです。いわゆる“良きこと”に加えて、財務とか経済とか、会社の本来的な財務パフォーマンスの両方を見ないといけない。これまで財務パフォーマンスを見れる人は、いっぱいいたんですよね。だけど、ESG的なトピックを真剣に、そして企業の文脈で考えている人ってほんとうに少ないんですよ。「サステナビリティ=チャリティー」みたいな発想が未だにすごく根付いているというか……。「この人、資質あるな」と思う人でも「“自分”は、こういうインパクトを出したい」という主語が自分だったり。でも求められているのは、会社の文脈で考えられる人なんですよね。

サステナブルと利益の両方を見ることができる人が、これからの企業には必要であることがわかる。そして、主語は自分ではなく、会社や社会で語れるということも資質のひとつに含まれてきそうだ。

2020年にB Corpを取得したダノンジャパンで働くデイヴさんはサステナブルな視点をどう身につけたのかのでしょうか。

B Corpがドライブするサステナビリティとは

若林:サステナビリティと言ったときって、もちろん環境の話も含まれるんですけど。結局、経済の格差の問題というのは、人種の格差になっていて。そういう話っていうのは、社会と関わっていて包括的に見なきゃいけないじゃないですか。そういう視点みたいなものって、デイヴさんはどういうふうに身につけられたんですか?

デイヴ・マテオ(以下、デイヴ):私はフィリピン出身なのですが、日本に来て色々とびっくりした経験もありまして。例えば、ゴミがどこにもあまり見えないこと。日本はすごく循環型社会として進んでいる国だなと思っていました。でも、日本に19年ぐらい住んで、徐々にそうでもないな…と思うことも増えてきたんです。なので、自分でも少しずつできることを始めてみました。例えば、桜が咲く季節には、会社の同僚と「プラスチックゼロお花見」を企画しまして。「プラスチックをなるべく持ってこないでね」と伝え、身近なことから楽しく、環境のためにできることをしています。

先ほど篠田さんがおっしゃったような「トレードオフ」にも繋がるのですが、ダノンでは、ちょうど50年前の1972年、当時の社長アントワーヌ・リブ―氏が「デュアル・プロジェクト」という企業理念を発表しました。それは「経済発展と社会貢献の両方で成功することこそ、会社の目的である」という当時としては画期的なコンセプトでした。これは今でも私たちの会社DNAに刻み込まれた大切な考え方なんです。

デイヴ・マテオ(Dave Mateo|ダノンジャパン/サステナビリティ・エンジニア/Ph.D.)

ダノンジャパン シニア・パブリックアフェアーズ・アンド・サステナビリティ・マネージャー。マプア大学(フィリピン・マニラ)で土木工学と環境衛生工学の学士号を取得したのち、京都大学で地球環境学の博士号、環境工学と経営の修士号を取得。外資系第三者審査機関・コンサルティング、国連環境計画(UNEP)を経て、ウォルマートジャパンにてサステナビリティ&エネルギーグループマネージャーを務めたのち、現職。B Corp認証を担当するタスクフォースを率い、ダノンジャパンを日本の食品・乳製品業界で初のB Corpに導いた。

篠田:そんな昔から、そのようなコンセプトをお持ちだったのですね。

デイヴ:そうなんです。このコンセプトのもと、半世紀ほどB Corpの1つのスローガンにもなっている「using business as a force for good」について考えてきました。

ビジネスを通してお金をつくり、その中で、いかにビジネスを「good」なことに結びつけていくのか…。私たちの変わらない答えですが、「good」というのは投資家や株主のためだけの利益追求でなく、社会や環境は全て因果関係で繋がっていて、誰も置き去りにしないことと考えています。

“The Declaration of Interdependence”(相互依存宣言) B Corp UKのツイッターより

若林:そこでなんですが「business as a force for good」っていうところの「good」って何?みたいなところありますよね。

眞々部:「いいこと」っていう言葉は、結構問題あるなと思っていて。そもそも、ビジネスも地球をぶっ壊そうと思ってビジネスを始める人って多分いないですよね。そういう二分するような表現を使うのは危ないなというのは、思っています。

篠田:今、伺いながら思ったことがあります。一つは「会社とはどんな存在であるべきか」という社会からの期待についてです。大企業になると感じにくいかもしれませんが、会社というものは、言ってみればフィクションじゃないですか。法制度に則った幻想なんですよね。会社は、みんながあると思っているから、存在できる。言い換えると、社会にあってOKっていう承認をもらっていないと、存在しないのと同じなんです。社会が許容する会社像とも言うべきものがあり、それに沿ってなければだめなんですよね。そしてあるべき会社像って結構、時代ごとに移ろうものなのです。今ここで議論している話というのは、どうも「会社ってこうあってほしい」っていう像が今、揺らぎ始めている。この揺らぎへの戸惑いが今日のテーマだなと思いました。

もう一つは「いいこと」って何?みたいな話に関してです。さきほど眞々部さんがおっしゃったように、初めから公害を垂れ流してやるとか、人をこき使ってやると思って事業を始めているということは、ないんです。しかし、営利企業に限らず組織というものは、定義上、世の中と自分たちの間に境目というか、塀を立て、その目的のために内側に人とかお金とか情報を占有しますよね。つまり、組織というものは構造上、世の中と断絶するようにできているんですよ。だからそこは非常に気を付けないといけない。組織の内側の良かれと思われることと組織の外の価値観がずれるからです。組織の内側にいる私たちは、外の動きをキャッチすることを相当意識しないといけません。その構造が根っこにあるのですから、「いいこと」はSDGs部門とかCSR部門の業務だと思っちゃっていると、すでにそこで間違っている感じはしますよね。組織の各部署がそれぞれ社会との接点をどう作るんですか?というのが、本当のイシューなんじゃないかな?と最近思うようになりました。

若林:ちょっと雑な話かもしれないですけど。そこにちゃんと人っていうものを置けるのかっていう話のような気もするんですよ。

篠田:そうですね。もう一つ、声を大にして言いたいんですけど、営利企業は、まず儲けないと社会善にしたことにならないと思うんですよ。だって本業は、例えばダノンさんであれば、乳製品を売るとか。楽天さんであれば、みんながお買い物できるマーケットプレイスを作っていらっしゃるんだけど、それが社会のニーズと合っていなかったら、売り上げ伸びないし、儲からないんですよね。その時点で会社として、なくてもいいんじゃないですか?って話になるから。むしろ利益が出ているっていうことは、本来では社会に良いことをしているということの証ですよね。

利益とサステナブルの両立を目指す企業のあり方は叶うが、その叶え方が、実は根本の課題であることが見えてきた。実際にB Corp取得を目指すバリューブックスは、利益以外の指標をどう考えているのだろうか。

鳥居:利益を出していく中で、そのやり方とかに関して、全うにやっていくために、利益以外の基準があるといいなと考えました。必ずしもB Corpの基準が完璧ではないんです。ただ、B Corpで私がすごくいいなと思っている部分は、トリプルボトムラインといって、方向的なことだけではなく、方面的にいいことを意識できる。それとちゃんと会社の利益も3本の柱がなければいけない。会社の経済的利益と、社会と環境。その3本柱がちゃんと維持されていなければいけないっていうのが、すごく重要視されているので、そこも大事なことだと思っています。

鳥居希(とりい・のぞみ|バリューブックス 取締役)

慶應義塾大学文学部(フランス文学専攻)卒業後、モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社に15年間勤務。2015年、長野県上田市を拠点として古本の買取販売を行う株式会社バリューブックスに参画。2年間古本による寄付「チャリボン」を担当。現在は経営陣の1人として、財務や広報を行う。その中で、会社の指針となるであろうB Corp認証の取得に向けて取り組んでいる。

デイヴ:ダノンも特に消費者、社会が注目している会社の「透明性」と「説明責任」を、どのように証明できるのかを考えて日々変化しています。その一つのツール「business enabler」としてB Corpの認証制度を使っており、その他にも様々な評価ツールを活用しています。やっぱり、一つのツールだけでは、会社の全てを図ることはできないと思うのですね。現在は、2023年に迫るB Corp再認証に向けて、B Corpタスクフォースを編成し、改善企画プランを、色々と計画しています。B Corpとして、「good」のために、社内で何を変えていくか、何を目指すかっていうのが大事だと思うんです。

バリューブックスもダノンジャパンでも、B Corpというツールを利用する、という考え方が興味深い。いわゆる資格制度のように一度取得したら未来永劫続くのではなく、B Corpは定期的に検証されるので、それに向けてどう動くかを考えること。その過程が、企業をサステナブルな存在にしていく。サステナブルな存在として企業を継続させること。そのためにB Corpがあると考えるとよさそうだ。

次に気になるのがB Corpで言う「いい会社」の「いい」の意味。

若林:B Corpでも、なるほどなって思うのはさっきもあった「good」って言ったときの、ある種、絶対的な「善」みたいなものがあるっていうように、なんとなくみんなが捉えてしまうのが多分間違いで。意外と自分の持ち場の中でやることが、会社っていうものじゃないのかみたいな気がするんだけど……。

どう言ったらいいんだろう? うちなりにやれる良いことを考えることが、恐らく重要なのに、もうちょっと巨大な「善」みたいなことに、ちゃんと奉仕しなきゃいけないみたいな。なんか、そういう感じになるのが結構不思議なんだよなとかって思ったりするんです。

眞々部:全世界の人を幸せにするぞ、みたいなことを、あと3年でやるみたいなのはちょっとおかしいと思うし。フォーカスエリアをどこに持っていくか、が重要なのかと。

デイヴ:「ビジネス」に対する重要性と、「利害関係者」に対する重要性の両方を考えることが大事だと思います。社会課題全てがその企業に直接関係するわけじゃないから。例えば、食品廃棄ゼロを目指した時。「なぜそれがこの会社にとって大事なのか?」その答えを探すとき、「ビジネス」と「利害関係者」、この2つの要素をバランスをとって考えられていることが大切なのだと思います。

篠田:これは結構有名な事例ですが、Nestléはメインビジネスでそこに取り組もうとしていますね。コーヒーをつくる各国の農家へ、コーヒー豆の育て方だけでなく、村の地域開発までサステナビリティに配慮した形で会社として支援すると決めています。単にチャリティとして捉えているわけではないと思います。短期的な点な観点では社会的にバッシングされるリスクを減らしたい。そして長期的なことを考えると、そのコーヒー豆を作る環境が水の汚染などが進むことで、必要なコーヒー豆が20年後とかに手に入らなくなる可能性がある。短期的にも長期的にも会社の実利と環境配慮や社会開発というものをつなげたソリューションを考えている。

これって、そもそもプランするのが大変だし、実装するのに何年もかかる話ですよね。でも、その発想をしましょうよという規律を企業に導入するのに、B Corpみたいな仕組みというのがとても効果的なんだなと思います。

Nestlé のCSVレポートに関するツイートなど。Nestlé のツイッターより

社会的な問題や気候変動が欧米の企業をサステナブルへと導いた。そのためのツールとして有効なのがB Corp。では、日本の企業のサステナブルはどうやったら実現できるのだろう。

日本でサステナブルを実現するには

若林:変えなきゃって思うのって、1個の体験みたいなことですよね。熱波がきて人が死ぬみたいなこととか、地震とかもそういうものだと思うんですけど。そういう体験みたいなことが、強く共有されると変えなきゃいけないみたいなことが強く起きるんだろうなっていう気はするんですよ。

眞々部:実はこの前も3.11から10年ということで、東北の漁師さんと話していたんですね。サステナブルな、カキの養殖を始めたっていう人たちもいて。それがだんだん、国際的な認証を取るわけですよ。カキの養殖がサステナブルだ、みたいな認証を取るんです。それはやっぱり、今までは、震災の前までは「俺が取る」「俺が取る」みたいな感じで、みんなバンバン、カキを養殖していて。結果的にできるカキも小さくなってみたいな感じだったらしいんです。だけど一回グレート・リセットが起きて、もう一回、いい養殖をしようという話が、だんだん広がっていると聞きました。

若林:やっぱりいきなり大きく変わらないんだけれども、そこから20年経つと、もしかしたら主流になっていることが起きるのではないか?ということを僕は期待していいんだと思っているんです。

篠田:3.11で私たちが受けたインパクトが企業活動につながるのって、日本の仕組みだと結構時間かかっちゃうなと思って。それはなぜかと言うと、少なくとも大企業の文脈だと年功序列だからです。あの震災でリアルに個人として、これはちょっとやばいなって影響を受けた方って、どっちかというと、若い方だと思うんですよね。例えば、当時学生さんで、実際現地に行ってボランティア活動をしてみたいな方。その方々って、まだ企業では新入社員から30歳ぐらい。まだその年齢では、企業の大きな意思決定のところに、いまいち噛めていないんだなって感じはします。

これが、もう5年、10年してくると、そこも踏まえて自分たちの事業活動がどうあるべきっていうところに、もうちょっと入ってきてくださると思うんです。その頃までに、「自分、個人としてどうなの?」ということを会社で表現してOKというか。むしろ、それが歓迎されるっていう流れになっている会社は、そこがうまく拾えていくんだろうなと思っています。

企業を変えるには、共通の強い体験があってそれを実感できている人がいるかどうか。サステナブルが大事だ、という実感があることが必要になってくる。

眞々部:他者の実感を作るには、「これ大事なんですよ」って言ってるだけでは、なかなか難しいと思っていて。やっぱり相手の言語でしゃべっていかないといけないのかと。和魂洋才みたいな感じで、サステナビリティ魂・ビジネス才みたいな。そういうマインドセットとスキルセットみたいなものを、両方持って、経営者と話すときはビジネスインパクトについて話すことができる人は貴重ですよね。

GPIFのウェブサイトに行くと、毎年7月に彼らの保有株式の数が出ているんです。公的年金が自社の株をどれだけ持っているかが、そこに全部書いてあるんですよ。その運用の一部は、ESG投資でやっていくということになっているんです。要は、そこに書いてある株式はESGの影響を受けているんだよ、と上場企業の経営者に説明をすることができる。そうすることで、自身としては経営者とのコミュニケーションがとりやすくなった部分はあったなと思います。

共通の強い体験を作るのが難しいのであれば、ESG投資が有効であることを説明することも有効になりそうだ。日本の場合、サステナブルな企業になると利益が出る、というデータを見せることで何よりも実感が得られそうだ。

一方で、今の経営層がサステナブルの必要性を実感できていないのとは反対に、若い世代の感覚は真逆であることをデイヴさんが教えてくれた。

デイヴ:セミナーに参加した際などに若い方と話しをしていると、サステナビリティについてよく聞かれるようになりました。「この会社は廃棄削減をやっているか?」「食品廃棄の削減方法は?」等細かい部分まで質問するほど本当に関心が高くて。自分の価値観やや目的に合っている会社で働きたいという人が増えていると感じます。会社が良い人材を選ぶのではなくて、逆に選ばれる側になっているんですよね。その中でB Corpは1つの指標になりつつあるのだと思います。

社会的課題を当然のこととして実感している世代は、すでに働く会社の選び方にもサステナブルな視点を加味しているひとが増えているという。

「これからのいい会社」を考えるときに、サステナブルであることは欠かせないのは明らかだ。そのためにB Corpというツールを使うのはひとつのやり方として有効である。まずは、今、自分がいる会社の内側をどう変えていくか、がいちばんの壁かもしれない。他人を変えることはそう簡単なことじゃないからだ。そのためのムーヴメントとしてもB Corpはいい方向に作用する気がしている。

文・篠田慶子(しのだ・けいこ|@cosme編集長)

東京都生まれ。大学卒業後、ファッション誌でスタイリスト・編集者を経験。その後、フリーペーパーの編集者を経て、株式会社メディアジーンにてcafeglobe編集長、GLITTY編集長を経て、2017年10月に独立、@cosme編集長に就任。2022年4月から、エシカルな美容のプロジェクト「@cosme BEAUTYHOOD」をローンチ。「あたらしい会社の学校『B Corp ハンドブック翻訳ゼミ』」のゼミメンバーの一員。

▼本イベントの動画、文字起こしはこちらから

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Written by あたらしい会社の学校

B Corpをはじめとした「企業のあたらしいあり方」を考える、バリューブックスと黒鳥社によるプロジェクト

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